大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

盛岡家庭裁判所 昭和40年(少ハ)4号 決定 1966年2月18日

本人 S・T(昭二一・一・四生)

主文

本人の収容を継続しない。

理由

(本件申請の要旨)

本件収容継続申請の要旨は、次のとおりである。

1  本人は、昭和三九年一一月二七日盛岡家庭裁判所において、特別少年院に送致する旨の決定を受け、同日、盛岡少年院に収容され、昭和四〇年七月一七日、久里浜少年院に移送され、同少年院に収容中の者であるが、昭和四一年一月三日、満二〇年に達し、同少年院を退院させなければならないものである。

2  しかしながら、本人は、盛岡少年院在院当時から、しばしば反則事故を繰り返し、同少年院収容中、同僚殴打、職員暴行、態度不良などの件で、四回の謹慎処分を受け、久里浜少年院移送後もなお、反則事故が絶えず、同少年院収容後、すでに、喧嘩、同僚殴打、逃走企図などの件で、三回の謹慎処分を受け、いまだ、在院成績が向上するに至らず、処遇段階は二級の下にとどまつており、単独処遇による特別指導を受けている。

3  また、本人は、知能的および身体的には、さして問題はないが、性格的には、気分の変化が大きく、感情的で、興奮しやすく、自己抑制に乏しく、衝動的であつて、いまだ、その犯罪的傾向が矯正されたものとは認められない。

4  さらに、本人の実父は、本人の引取方の意志を表明しているが、実父自身病弱の上、経済的に極めて貧困で生活扶助を受けており、その受け入れ能力には、ほとんど期待することができないので、目下、札幌保護観察所において、実父方の環境および受け入れ体制を調整中である。

5  したがつて、現段階において、本人を期間満了により出院させることは不適当であり、さらに引き続き収容して、矯正教育を施す必要がある。その期間は、本人に対しては、じ後、通常の成績で経過し、処遇段階が一級の上に達したとしても、その後、なお、最高段階における教育を三ヵ月間、施した上で、退院させることが必要と認められるので、その期間を考慮し、昭和四一年一〇月一五日までとするのが相当である。

6  よつて、少年院法第一一条第二項により、本件収容継続申請に及んだものである。

(申請棄却の理由)

そこで、本件収容継続申請の当否について検討する。

1  まず、久里浜少年院長作成の本件収容継続決定申請書、札幌家庭裁判所調査官作成の本件調査報告書および一件記録ならびに法務教官川島真一、同日比一義および本人の各陳述を総合すると、本件申請の要旨一ないし四記載の各事実が認められる。

2  また、上記少年院長作成の「在院少年の収容継続申請について」と題する書面ならびに、上記川島真一、日比一義、法務教官市村正司、同草間徳康、医師水沼一孝および本人の各陳述を総合すると、(1)本人は、本件申請以後も、反則事故としての懲戒処分に至らないまでも、頻繁に、同僚や職員に対し、粗暴ないし危険な言動を繰り返し、いまだに、犯罪的傾向が矯正されていないこと。(2)本人は、本件申請前昭和四〇年九月三〇日、精神科医の診断を受け、その結果、異常興奮の鎮静を図るため、継続して薬物投与を受け、その間、自殺の虞れがあつたため、二回にわたり、皮手綻を施され、本件申請以後も、連日のように、人や所をきらわずに粗野な言動を繰り返し、薬物の増量投与、皮手綻の反覆使用によつて、異常行動を抑制されており、昭和四一年二月一日頃からは、薬物投与の効果によつて、寝たり、起きたりの状態の繰り返しであつて、見さかいなく暴れたり、騒いだりすることが少なくなり、異常な言動が、ほぼ鎮圧されていること。(3)本人は、昭和四一年一月一九日、上記少年院において、特別審査の上、その処遇段階が、二級の上に進級しているが、これは本人の性格、行動、態度、上記少年院収容中の他の少年らに対する影響など諸般の事情を勘案した上記少年院の政治的考慮によるものであること。(4)本人は、爆発性性格異常の精神病質者であつて、易刺激性、攻撃的、好争的で、執着的傾向が強く、自傷他害の危険性が大きく、自殺の虞があること。(5)本人に対しては、精神病質者として、精神衛生法上の強制入院措置による専門的医学的治療を施す必要があると認められ、同年二月中旬、上記少年院長から神奈川県知事に対する通報によつて、同法に基づく措置入院の手続がとられ、同月一八日、精神衛生鑑定医の診察の結果、同法による強制入院および治療の措置が施されることが、ほぼ確実になつたことなどの事実が認められる。

3  以上の事実を総合すると、本件申請時から、本件審判時までの間に、上記2認定のとおり事情の変更した理段階においては、本人に対し、特別ないし医療少年院に継続して収容し、犯罪的傾向の矯正ないし精神病質の治療を図ることは、ほとんど不可能ないし不適当であつて、むしろ、本人に対しては、何よりもまず、精神衛生法上の強制入院措置によつて、専門的医療保護機関の手に委ね、精神病質人格の医学的治療を施すことが、必要不可欠かつ適切、効果的であると認められる。

4  したがつて、少年院において、本人を矯正、治療することが可能であることを前提とする本件申請は、その申請後の事情変更によつて、少年院における矯正治療がほとんど不可能であつて、保護処分が不適当と認められる現段階においては、もはや、上記申請の要旨5記載の理由それ自体が、その前提を欠き、存続すべきいわれがなく、その理由がなくなつているのである。

よつて、本件申請を棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判官 玉川敏夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例